研究が楽しくて仕方ありませんでした
洪 鋒雷
子供のときの夢は科学者になることでした。また、飛行機などで世界をまたにかける仕事が格好いいと思っていました。今の仕事はほぼその夢に沿って進んでいますが、光・量子エレクトロニクス業績賞(宅間宏賞)の受賞のお知らせをいただいたとき、これはまさに夢の中の出来事ではないかと思いました。このような栄えある賞をいただくことはこの上ない喜びであり、関係者の皆さまに深く感謝申し上げます。
今回評価していただいた、レーザー精密分光、波長安定化レーザー、光周波数計測に関する仕事の多くは、旧計量標準研究所及び現在の産業技術総合研究所で行いました。そこでは、石川純さん、大苗敦さんをはじめ多く方々に導いてあるいは支えていただきました。ちょうど波長安定化レーザー研究の全盛期であり、また光周波数計測の黎明期であったので、考えたアイデアを次から次へと実行へ移すことができ、研究が楽しくて仕方ありませんでした。また1997年から約2年間、米国立標準技術研究所&コロラド大学JILA研究所のJ. L. Hall先生(2005年ノーベル物理学賞受賞)の研究室で研究をするチャンスを得て、後の研究展開の糧となるような知識と技術を吸収しただけではなく、国際的な人脈も築くことができました。
光周波数標準に関する研究は、東京大学の香取秀俊さんとの共同研究がきっかけでスタートしました。光格子時計の周波数計測は苦労の連続で、原子時計や水素メーザーなどの大型実験装置を産総研から東大へ運んだだけではなく、最後は電通大とNICTも巻き込んだ共同研究チームを作り、実際に敷設されている120kmの光ファイバーを使って、最先端技術である光キャリアリンクで測りきることができました。その後、産総研でも光格子時計を立ち上げることができ、一連の研究は秒の再定義に向けた世界的な動きに大きく貢献できたと自負しています。
横浜国立大学に移ってからも、引き続きレーザー精密分光と光コムの研究を進めております。最近では、光コムの広帯域化を行い、その発生原理を周波数計測の手法を用いて解明することに成功しています。
最後になりますが、基礎的な教育を施していただいた中学・高校の数学と物理の先生、そして大学時代の恩師清水忠雄先生に感謝したいと思います。同時に、いつもサポートしていただている同僚、家族、友人に心より御礼を申し上げるとともに、この素晴らしい出会いに感謝いたします。
(この原稿は、2020年3月12日の第67回応用物理学会春期学術講演会授賞式における受賞あいさつのために書いたものです。応用物理学会が中止となったため、ここで掲載いたします。)