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洪鋒雷・赤松大輔研究室@横浜国立大学 理工学部・大学院工学研究院では、超精密分光・量子計測を専門とし、光コム、光周波数コム、光時計、原子・分子、原子時計、量子標準の研究・教育を行う
〒240-8501 横浜市保土ヶ谷区常盤台79-5
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光コムとは
3.光コムの原理
図1の中程に光スペクトラムアナライザーを用いて観測されたモード同期Ti:Sレーザー(中心波長800 nm、超短パルス幅25 fs)の発振スペクトルの包絡線が示されている。モード同期レーザーは、多モード発振をし、共振器中の非線形光学効果により発振モードの周波数間隔が等しくなる。光スペクトラムアナライザーの分解能の制限により、モード同期レーザーの離散的なスペクトルは観測されていない。しかし、ある程度モード間隔の大きいレーザーであれば、レーザー光を回折格子やプリズムに当てて、遠くへとばすとモード同期レーザーの離散的なスペクトルを観測することができる。図1では包絡線の上に拡大した光コムのモードを示した。仮想的にゼロ周波数までコムのモードが存在するとし、ゼロに最も近いモードを0番目のモード、その周波数をキャリアエンベロープオフセット周波数(f
0
)と呼ぶ。以降、モード番号を1ずつ増やし、実際に測定に用いるモードをn番目のモードとする。また、モードとモードの間隔を繰り返し周波数(f
r
)と呼ぶ。n番目モードの光周波数(f
n
)は f
n
= n f
r
+ f
0
と表すことができる。
図1 モード同期レーザーによる光周波数計測の原理。上から順番に、時間軸上の超短光パルス、周波数軸上の光周波数コム、光スペクトラムアナライザーで観測されたモード同期レーザーのスペクトル包絡線、そしてフォトニック結晶ファイバーによって広げられた光コムのスペクトル包絡線である。Øはキャリアエベロープ位相、Tはパルスの時間間隔、nは光コムモードの次数、f
r
は繰り返し周波数、f
0
はキャリアエンベロープオフセット周波数である。フォトニック結晶ファイバーによって広げられた光コムのスペクトル幅が1オクターブに達した場合、自己参照法
12)
を用いてf
0
を観測することができる。
周波数軸上の光コムと時間軸上の超短光パルス列との間は、フーリエ変換の関係で結ばれている(図1上部)。光コムのモードの間隔frは、まさに光パルスの繰り返し周波数であり、パルスの時間間隔(T)の逆数である。また、光パルスの幅とモード同期レーザーのスペクトル幅の間にもフーリエ関係があり、短いパルス幅の実現には広いスペクトル幅の発生が不可欠である。さらに光パルスにおいて、電場ピークと包絡線ピークの間の位相差がキャリアエベロープ位相(Ø)と呼ばれるが、隣り合うパルスのキャリアエベロープ位相のずれ(ΔØ)と、光周波数コムのオフセット周波数(f
0
)との間にはf
0
= (ΔØ/2Π)f
r
の関係がある。
モード同期レーザーのfrは容易に測定できるが、f
0
の測定には、光コムを1オクターブ以上に広げた上で自己参照法
12)
を用いる必要がある。図2aに、入射されたモード同期レーザー光がPCFの中でスペクトルが広がるにつれ、その色が変化していく様子を示している。入射側はTi:Sレーザーの波長に近い赤い色をしているが、出射側は広がった後の緑色が見えている。出射された光を回折格子で分けると赤から青までの綺麗な虹色が見える(図2b)。目には見えないが、スペクトルは1μmの赤外まで延びている。図1に、光スペクトラムアナライザーによって観測されたPCFで広げられた1オクターブの光コムスペクトルの包絡線が示されている。
図2 フォトニック結晶ファイバーによる光コムのスペクトル拡張。a)は入射されたモード同期レーザー光がファイバーの中でスペクトルが広がるにつれ、その色が変化していく様子である。b)はファイバー出射後のコムの光を回折格子で分けたときに観測される虹色のスペクトルである。
光コムのスペクトルが1オクターブに届くことは光周波数計測への応用という観点から見れば極めて重要なことである。1オクターブの低周波端にあるn番目モードの周波数をf
n
= nf
r
+ f
0
とする。コムが1オクターブ以上に広がっているので、2n番目のモードも存在し、その周波数はf
2n
= 2nf
r
+ f
0
となる。ここで、n番目モードの2次高調波発生をさせると、その周波数は2f
n
= 2nf
r
+ 2f
0
となることがわかる。2n番目のモードとn番目モードの2次高調波との間の周波数差がf
0
であり、ビート周波数測定によりf
0
が観測できる。これは、f-2f型の自己参照法と呼ばれている
12)
。ここでの2次高調波発生及びビート周波数測定は光コムのパルスの特性も使っている。パルスなので、高効率な2次高調波発生ができる。(ここでは、わかりやすくするために2次高調波発生しか言及していないが、実際には光コムモード間の和周波発生も起きている。)また、f
0
のビート周波数測定において、波面合わせだけではなく、パルスのタイミング合わせも必要である
12)
。
得られたf
r
とf
0
をそれぞれ周波数基準に位相同期させることにより、光コムを原子時計に安定化することができる。frの制御ポートとしてモード同期レーザーの共振器長が、またf
0
の制御ポートとしてモード同期レーザーの励起光パワーが用いられている。このように安定化されたモード同期レーザーの光コムはまさに「光周波数のものさし」である。
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[本文書は、「応用物理」第79巻、第6号、pp. 546-549 (2010)に掲載されたものである。]
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